かけはし誌上コラム(かけはし掲載分) 羽田鉄工団地協同組合




産業衛生コンサルタント北條先生(右)と岡部保健師(左)

平成19年
1月 感染性胃腸炎 「ノロウイルス」
2月 こころの健康チェック
3月 心の健康チェック
4月 お酒について
5月 麻疹(はしか)の流行について
6月 睡眠について
7月 熱中症について
8月 食中毒について
9月 禁煙について
10月 ピロリちゃんについて
11月 くも膜下出血について
12月 インフルエンザの流行時期となりました


平成19年12月

インフルエンザの流行時期となりました

今年もインフルエンザの流行する季節となりました。 例年、気温が下がり、空気が乾燥する季節になると気道粘膜の抵抗性が弱り、インフルエンザウイルスに感染しやすくなるためと言われています。 インフルエンザは通常の風邪と異なり38〜39度の高熱、頭痛、全身の関節痛、筋肉痛などの症状が激しく出現して日常生活が困難となり寝込んでしまいます。 インフルエンザは非常に感染力が強く職場や学校、家庭で短期間のうちに拡がります。会社等では生産性の低下は当然ですが、欠勤者の増加によっては会社組織としての機能がダウンするケースもありますので注意が必要です。 治安関係の警察、消防、交通機関、病院、老人ホーム、水道、電気、ガス等のライフラインが休止してしまうと社会的に大きな影響が出ますので、予防接種を義務付けている職場もあります。 外国では軍隊も優先して予防接種をするグループになっているそうです。 東京都インフルエンザ情報 46週(11月12日〜18日)の状況はインフルエンザ患者数が293人報告されています。 これは都内に感染症の動向を察知するために設けられた定点観測医療機関から報告されたものを集計した数です。私も大田区の定点として指定されています。患者数は昨年同時期3人でしたので今年は流行が早く始まっています。 新宿、世田谷、文京、練馬、町田、多摩の4区2市では学級閉鎖が報告されています。 この「かけはし」が出る頃はもっと患者数が増えていることと思います。 ウイルスのタイプはA香港型、Aソ連型が検出されたと報告されています。1定点期間当たりでは1.02人(昨年同期は0.02人)となっています。 1定点当たり1.0人を超すと流行の目安になると言われていますのでいよいよ流行時期に入りました。 全国の流行状況46週(11月12日〜18日)現在1定点当たり北海道8.05、沖縄3.07、和歌山1.66、千葉1.51、兵庫1.40、東京は先述のように 1.02で全国では8位となっています。出張等でこの地方にお出かけの方はご注意ください。 大田区の46週の集計によると18歳以下が24名、19歳以上が1名合計25名となっていて学童が中心に流行しているようです。次第に大人に拡がって来るのが通常のパターンですのでご注意ください。 怖い合併症 高齢者がインフルエンザに罹ると肺気腫や慢性気管支炎が悪化します。 心臓病や糖尿病等の普段治療している慢性的な生活習慣病も悪化し、ときには致命的になることも稀ではありません。インフルエンザがきっかけで「寝たきり」になるケースも見られます。 このような事態を予防するために数年前から市区町村でも65歳以上の人には予防接種を受けるように補助金を出して勧奨しています。 予防のポイント インフルエンザはウイルスの感染によって発病します。ウイルスは咳やくしゃみなどによって周囲に拡散します。気流の静止した室内で咳やくしゃみをすると、ウイルスを含んだ飛沫が飛び、地面(床面)に落下するまでには 2時間かかると言うデーターもあります。 これを他人が吸入して感染が成立する仕組みです。
予防としては
@人混みを避ける
A十分な休養をとる
B手洗い、うがいの励行
Cマスクの着用(完全ではないが、予防には役立つ)
D室内の乾燥に気をつける
等です。インフルエンザに罹らないようにしてこの冬を元気に乗り切りましょう。


平成19年11月

くも膜下出血について

くも膜下出血は突然起こって、死亡率の高い病気としてよく知られています。 最近、元オリンピック選手でスポーツ番組や芸能番組のテレビ出演等で有名だった木原光知子さんが神奈川県の或る都市で開かれたイベントに参加し水泳指導中にプールの中でくも膜下出血を起こして倒れ、そのまま亡くなってしまったことが大きく報道されました。突然倒れて、一度も意識は回復せずに亡くなったと聞いています。 脳血管障害には脳の血管が破裂してしまう脳出血と脳血管が閉塞して血流が障害される脳梗塞に分類されますが、両方の病変を総称して脳卒中といいます。 脳梗塞の方は年々増加の傾向にありますが脳出血の方は血圧の治療が進んだこと等から増加はみられず、むしろ減少の傾向にあります。 くも膜下出血は脳卒中の約10%を占めていますが命を脅かす疾患として恐れられています。 因みに脳卒中(脳血管障害)は日本人の死亡原因としては、第一位の各種の癌、第二位の心臓病に続いて第三位を占めている病気です。くも膜下出血を起こすと約5割の方が死亡します。残り3割の方は何らかの後遺症を残し、大変不自由な生活を強いられます。「寝たきり」になり介護保険のお世話になっているケースも珍しくありません。 性別では女性に多く起こり、年代的には40台〜50台のような比較的若いうちに発症します。30台半ばでの発病もありました。この年代だと子供も小さくてまだ手がかかりますので母親が死亡してしまいますと夫も会社を辞め転職しなければいけなくなり、大変気の毒な事例を経験したことがあります。 くも膜下出血の原因の8〜9割は脳動脈瘤の破裂であり、破れて出血を起こす瞬間まで無症状である方が大部分です。 しかし、幸いにも回復した方に詳しく聞いてみますと、倒れる前兆として倒れた当日に激しい頭痛があったことが高率に認められます。突発的に激しい頭痛や、突然の嘔吐があったら無理しないで、予定の仕事を中断してでも医療機関を受診してください。木原さんの貴重な事例を思い起こしてください。 くも膜下って何ですか? 頭蓋骨の中に納まっている脳は大事な器官ですので、しっかりと膜に包まれて丁寧に保護されています。その膜は硬膜、くも膜、軟膜の三層から成り立っていて、くも膜は蜘蛛の巣のように血管が張り巡らされている膜で、このことが名前の由来となっています。この血管の奇形や動脈瘤、内臓の合併症が原因で出血を起こしますが、8〜9割は動脈瘤が原因となる出血です。 くも膜下出血の治療法は? 脳脊髄液の検査やCTスキャン、MRI等による脳血管撮影検査で出血箇所を確認します。 出血の原因が動脈瘤と診断されたら開頭手術か血管内手術(脳動脈瘤塞栓術)が行われます。 開頭手術は特殊合金やチタンで出来たクリップで出血箇所を止めます。クリッピング術といいます。脳動脈瘤が巨大な場合はバイパス手術が行われます。脳動脈瘤塞栓術は大腿部(太もも)の血管から金属線を通して脳動脈瘤内に誘導し、金属線をコイル状に丸めて脳動脈瘤内を埋め尽くします。これを脳動脈瘤塞栓術といいます。今回はくも膜下出血のお話を書きました。 良い生活習慣を守り健康で頑張りましょう。


平成19年10月

ピロリちゃんについて

ピロリ菌は人の胃の粘膜に住み着いて酸性の強い胃酸の中でも元気に生存する菌です。一般の菌は生息できる環境ではありません。
ピロリ菌は正式にはヘリコバクターピロリといいます。身長5ミクロン、螺旋状の細菌で鞭毛と呼ばれる尾のようなものが数本付いています。
これが回転して動き回ります。ヘリコプターのように動くので「ヘリコ」です。 「バクター」は細菌のバクテリアから由来し、「ピロリ」は胃の出口である
幽門(Pylorus)から由来しています。
198年、オーストラリアのマーシャルという医師が発見しました。
このことで後にノーベル賞を受賞しています。 どのようにして感染するの? 経口感染です。ピロリ菌は口から入ります。ピロリ菌に感染している人は排泄物にピロリ菌を排泄します。欧米人に比べてアジア人は感染率が高く、上下水道の普及等 の衛生状態の優劣に関係すると言われています。
因みに日本では総人口の半数、6000万人がピロリ菌に感染しているといわれます。
若い人は比較的感染率が低く、40歳以上では約80%の人が感染していると推定されています。
当然ですが加齢とともに感染率は上昇します。親子間では口→口感染も考えられていて、両親がピロリ菌に感染しているとその子供は40%が感染していて、片親だけが感染して いる場合や両親とも感染していない場合に比べて高い感染率を示します。
最近の報道によるとB型肝炎も食物の口移しやキス等の行為によって免疫力の弱い乳幼児に感染すると言われています。
可愛い気持ちはわかりますが注意が必要でしょう。
ピロリ菌は除菌しない限り一生涯感染を持続します。 ピロリ菌は悪戯するの? ピロリ菌に感染すると胃炎を引き起こします。そのまま放置すると慢性胃炎から萎縮性胃炎に発展し胃潰瘍や十二指腸潰瘍を引き起こすことがあります。
WHOは1994年に「ピロリ菌は胃がんを引き起こす危険因子である」と声明を出しました。
ピロリ菌の除菌治療により胃炎が改善したり潰瘍の再発が激減することが分かってきました。さらには過形生性ポリープの消失、MALTリンパ腫の軽快治癒例も報告されるようになりました。
胃がんの発生にも深く関与していることが解明されつつあります。
胃がん患者の60〜95%にピロリ菌の感染があるといわれています。
持続的なピロリ菌の感染により胃粘膜の炎症を基盤として胃がんが発生することは確かな事実となりつつあり、ピロリ菌感染者の5%は胃がんになると言う報告もあります。
(日医誌p288、135巻2号) ピロリ菌感染の検査法一つは内視鏡(胃カメラ)による方法です。そのほか血液や便で調べることが可能です。
また、東京ガスが開発した、吐く息だけで調べる方法もあります。
日本人に胃がんが多いことは世界的に有名です。暴飲暴食に気をつけて元気に働き続けましょう。


平成19年9月

禁煙について

喫煙は生活習慣病、がん、呼吸器疾患の発症に悪影響を及ぼすことはご承知のことと思います。
平成20年4月から始まる特定健診・特定保健指導でも問診の項目で喫煙暦の聴取が必須となっています。特定健診・保健指導は生活習慣の改善により病気の発生を予防し、最終的には医療費の削減や介護予防に重点をおいたもので、「医療制度改革大綱」(平成17年12月)で指摘されている「生活習慣病予防の徹底」を図る政策に則って義務づけられたものです。愛煙家には益々「逆風」が吹いてきそうです。
「たばこ」の害

がん・・・喫煙者は非喫煙者に比べて肺がん(4.5倍)口腔がん(2.8倍)咽頭がん(3.0倍)
     喉頭がん(32.5倍)も多く発生します。女性では子宮がんも増加します。
歯周病・・・喫煙により歯周病や歯肉へのメラニン色素沈着の原因となります。
動脈硬化症・・・喫煙は血管を収縮させて悪玉コレステロールを増加させ、善玉コレステロール(HDLコレステロール)を減少させます。
その結果、動脈が硬くなり心筋梗塞、狭心症、脳梗塞を発症させる原因となります。
呼吸器障害・・・喫煙は気道や肺を傷つけて咳や痰の多く出る慢性気管支炎や肺気腫(閉塞性肺疾患)を引き起こし、ちょっとした運動でも息切れするようになります。

妊婦の喫煙

喫煙によって子宮や胎盤の血管が収縮して、低体重児の出産、早産、流産、死産、先天異常を発生させる危険率が上昇します。たばこの煙に含まれる一酸化炭素が原因で胎児が酸欠状態になるためと言われています。

「たばこ」の三大有害物質

ニコチン・・・中枢神経刺激剤として脳に作用し「依存症」を作る原因物質です。
       効果が切れると、不快感、イライラ、不眠等の症状が出ます。抹消血管を収縮させて血圧を上昇させて心臓や脳に負担をかけ血管壁の老化を進めます。
タール・・・タールの中には数十種類の発がん物質が含まれます。
一酸化炭素・・・一酸化炭素がヘモグロビンに結合するため、血液中の酸素が十分に供給されない、軽い酸欠状態を起こします。このため心疾患、脳疾患を起こし易くし、動脈硬化を増進します。

受動喫煙の害

受動喫煙とは「自分の意思に関係なく他人のたばこの煙を吸わされる」ことです。
健康増進法第25条では受動喫煙の防止が明記されています。「学校、体育館、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、事務所、官公庁施設、飲食店、その他の多数の者が利用する施設を管理する者はこれ等を利用する者について受動喫煙を予防するために必要な措置を講ずるよう努めなければならない」とあります。
家庭では・・・1日に20本以上喫煙する夫の妻は本人が非喫煙者であっても肺がんの死亡率は通常の2倍に上昇する。
職場では・・・たばこの煙に汚染された職場で仕事するひとは、非喫煙者でも肺がん発生率が10年で1.3倍、20年で1.4倍、30年で1.86倍に上昇します。

職場における喫煙対策

職場の喫煙対策は平成8年2月に「職場における喫煙対策のためのガイドライン」が厚労省から出されました。
平成15年5月からは健康増進法で受動喫煙防止対策を講じることが努力義務となったため、それに対応して新ガイドライン「職場における喫煙対策のためのガイドライン」を定めました。

新ガイドラインは

設備対策・・・非喫煙場所にタバコの煙が漏れない喫煙室の設置
喫煙対策機器・・・空気正常装置では不十分。タバコの煙が拡散する前に吸引して屋外へ排出する方式の推進
職場の空気環境・・・喫煙室から非喫煙場所へのタバコの煙、臭いの流出防止のために喫煙室へ向かう気流を0.2/秒以上にすることが指示されています。

禁煙のメリット

20分で・・・血圧は正常化して、脈拍数も正常になります。
8時間で・・・血液中の一酸化炭素が正常域まで減る、運動能力が改善。
24時間で・・・心臓発作の確率が下がる。
48時間で・・・臭い、味の感覚が正常化。
72時間で・・・機関紙の収縮がとれ、呼吸が楽に、肺活量が増加。
3週間で・・・肺活量は30%回復します。
9ヶ月で・・・全身倦怠、呼吸促迫が改善
5年で・・・肺がんになる確率が半分になる。
10年で・・・口腔、咽頭、食道のがんになる確率が減少。
禁煙することによって病気のリスクが下がり、お小遣いが節約できます。さあ、禁煙頑張って下さい。


平成19年8月

食中毒について

梅雨から夏にかけて食中毒が増えてきます。そこで、今回は食中毒について書いてみます。
厚生労働省の統計によりますと細菌性の食中毒は5月から10月の間に集中しています。
集団発生しますと新聞記事やテレビニュースで報じられますが小規模なものは特には発表されませんので把握しきれないものもありますが約35,000名の方がこの期間に食中毒に罹っています。これは年間の発生数の約80%に相当します。

どんな菌による食中毒が多いですか?

食中毒を起こす細菌としては
1)サルモネラ、2)ブドウ球菌、3)腸炎ビブリオ、4)病原性大腸菌、5)カンピロバクターが食中毒に関係の深い代表的細菌です。
腸炎ビブリオによる食中毒の99%、ブドウ球菌による食中毒の87%、サルモネラ菌による食中毒の74%は5月から10月の期間に集中して発生しています。その理由としては菌の増殖しやすい温暖な季節であること、環境的に菌の増殖している食材を摂っていることが上げられます。
しかし、注意しなければいけないことは寒い季節でも住環境が良くなった現代では細菌性の食中毒はゼロではないということです。
冬場にはウイルスによる食中毒が多い傾向にあり、昨シーズンはノロやロタウイルスによる食中毒が大流行したことは記憶に新しいところです。

食中毒にはどんな種類があるの?

食中毒はその原因によって次のように分類されます。
1)自然毒によるもの
  植物性(毒キノコ、毒草)
  動物性(ふぐ毒、貝毒)
2)化学物質によるもの
  メタノール、エチレングリコール、農薬
3)ウイルス・細菌によるもの
食中毒の9割以上がウイルス・細菌によるものです。

食中毒予防のポイントは?

ポイント1
 食品の購入(新鮮なもの、賞味期限を確認)
ポイント2
 食品の保存(持ち帰ったら直ちに食べるか冷蔵庫、冷凍庫へ)
ポイント3
 準備(手を洗う、清潔な調理器具)
ポイント4
 調理(手、器具を洗う。十分な加熱)
ポイント5
 食事(手洗い、室温に放置せずに食べる)
ポイント6
 残った食品(清潔な器具、容器で保存。食べるときに加熱)

即ち、食中毒の原因菌やウイルスを食品に付着させない(手洗い、調理器具の洗浄)菌を増やさない(冷蔵庫等で保存)早く食べる(調理後、室温に放置しない)菌を消滅させる(加熱する)が食中毒予防の要点です。
食中毒が疑われたときは素人判断で下痢止めや胃腸薬を服用しないでください。
何故ならば食中毒の原因となった物質が腸管内にあるまま下痢止め等を服用されると腸内停滞時間が延長されて毒素の吸収を助長する可能性があるからです。
かかりつけ医に受診されることをお勧めします。
今年の夏も猛暑が予想されているようです。食事に気をつけて頑張りましょう。


平成19年7月

熱中症について

はじめに
例年夏が近くなると熱中症による犠牲者が出始めます。夏以外でも直射日光に曝されている車内に乳幼児を寝かしたまま、買い物をしている間に自動車の車内は異常な高温となり熱射病で亡くなる事件が時々報じられます。
なかにはゲームセンターやパチンコの駐車場で起きた事件が報じられることもあります。
体温調節がうまくできない乳幼児には特に注意を要します。
 働く人達にも熱中症による死亡事故は毎年発生していて、年々増加の傾向にあります。
発生する季節としては梅雨の時期からお盆にかけて多く見られます。
発生する時間としては2時〜4時台に多く発生します。
1日のうちでは午前11時台から増え始めて、昼休みから1時台は少なくなり2時頃から再び増えはじめます。なかには帰宅後に倒れた例も報告されています。
働く人の熱射病の過半数は建設業に従事する人達です。
熱射病の起こる暑熱環境としては「気温」「湿気」「風速」「輻射熱」が複雑に関与します。
熱中症の9割は気温33度以上、湿度75%以上で発生しますが直射日光下では20度台でも倒れる場合があります。特にスポーツ中の熱中症は20度台でも倒れますので注意が必要です。WBGTで28度以上になったら休憩をとらせながら行うように指導されています。

WBGTとは?

WBGTはWet Bulb Globe Temperature=
湿球黒球温度のことで熱中症予防の指標です。気温だけではなく湿度や輻射熱が加味されて測定できます。28度以上になると熱中症が増えるので激しい運動や持久走等は中止したほうが安全です。

熱中症の分類と症状

熱痙攣
 四肢や腹筋などに痛みを伴ったけいれんがある汗で体内の塩分が不足すると、足や腹部の筋肉がけいれんします。

熱失神
 皮膚の血管が拡張して血圧が低下し脳への血流が不十分となりめまい、失神をきたします。
顔面蒼白で速い、微弱な脈が特徴です。

熱疲労
 汗をかき過ぎると、水分、塩分の両方が不足して、血圧は下がり顔面蒼白、吐き気、めまい、強い疲労感を感じます。熱射病に進行する危険が大です。

熱射病

 意識障害、過呼吸、手足が動かない、おかしな言動・行動体温が急上昇、顔が紅潮します。
唇、舌等全身が乾燥します。
命に関わりますので救急車を呼ぶのが急務です。
私たちは体温が42度以上になると生命の維持は出来ません。体温を下げる主力は汗です。
汗が皮膚の表面から気化することで体温が下がります。
体重70キロの人ですと汗100CCで体温は1度下がります。汗で水分や塩分が失われ皮膚が乾くくらいになると熱中症になります。

熱中症の予防について

水分補給のしかた
 熱中症予防にはこまめに水分と塩分を補給する必要があります。
特に作業の開始前からの補給が大事です。また、水だけの補給では塩分不足のけいれんを起こすことがあります。10〜15度に冷やした0,1〜0,2%の食塩水がいいといわれています。
市販のスポーツドリンクもおすすめできます。

始業前
 朝食はキチンととりましょう。
 暑い中を駆けつけて出勤したりして体力を消耗することを避けましょう。始業前に体調の悪いときは正直に上司に言いましょう。
風通しのいい、汗の早く乾く素材の服装にしましょう。

終業後
アルコールの飲みすぎは尿量を増やし脱水症状を誘発します。夕食はキチンととりましょう。
夜更かしせずに睡眠は十分にとりましょう。
汗をかいてクーラーや扇風機等の風邪にあたって寝ると不調の原因になります。

休日について
クーラーの中でばかりすごすと身体が暑さに弱くなります。朝夕の涼しい時間に散歩等軽い運動をしましょう。献立を工夫してビタミンやバランスの良い食事にしましょう。
暑熱作業の予定される時は、ダイエットはやめましょう。




平成19年6月
睡眠について

はじめに
日常生活の中で睡眠障害は集中力の減退、作業能率の低下、事故の誘発に深く関わる重要な問題です。
また、生活習慣病への影響も無視できないものがあります。身体面の影響だけではなく精神衛生上でも重要な問題でありうつ病との関係は過重労働、長時間労働との関連も考慮する必要があり産業界としても大きな問題として取り上げられています。

生活習慣病と睡眠障害

睡眠障害は生活習慣病と称される高血圧、糖尿病、脂質異常症、心疾患にも悪影響を及ぼします。
高血圧では不眠により血圧の上昇がみられますし、糖尿病でも睡眠障害により血糖やHbA1cといわれる指標を悪化させます。その理由としては、高血圧では交感神経活性が促進されてカテコラミンと言う物質の分泌が増加し、その結果血圧上昇を招くといわれています。
高血圧の患者さんには不眠の方が多く、約30%の方が睡眠障害であり、そのうち途中覚醒が39.6%、入眠障害が27.3%と言われています。(Gislason報告)糖尿病でも不眠を訴える患者は多く41.9%の患者が睡眠障害を持っていると言われています。(Manocchia報告)
糖尿病では入眠障害、早朝覚醒が特に多いと報告されています。
高血糖にともなう口渇や夜間頻尿、抹消神経障害による神経痛が入眠や睡眠の維持を妨げます。
その他、居眠り事故の原因となる睡眠時無呼吸症候群(SAS)も話題となりました。

眠気と不眠の自己評価

睡眠の障害には様々なパターンがあります。
@寝つきの悪い人(入眠障害)
A夜中に度々目が覚める人(途中覚醒)
B目覚まし時計よりも2時間も早く目が覚めてしまいそれ以後眠れない人(早朝覚醒)
C朝、目が覚めた時、熟眠感が得られない人(熟眠障害)などに分類されます。
不眠で困っている人は医師に相談して、それぞれのパターンに応じた催眠薬を処方してもらう必要があるでしょう。
最後に不眠を訴える方に使われるエップワース眠気尺度(ESS)を紹介しますので心配な方は自分で採点してみて下さい。
充分でかつ適正な睡眠で仕事のやる気と効率アップに努めましょう。

0.絶対ない  1.時々ある  2.よくある  3.大体いつも
1)座って本を読んいて、居眠りをする
2)テレビをみていて居眠りする
3)会議や映画館で居眠りする
4)他の人が運転する車で居眠りする 
5)午後じっとしていると居眠りする 
6)座って人とおしゃべりしていて居眠りする
7)お昼ご飯の後で居眠りする
8)自分が運転していて信号待ちで居眠りする
※ 各質問の合計点が11点以上あれば病的な眠気があると判断します。



平成19年5月

麻疹(はしか)の流行について
  
今回は「はしか」の流行について書いてみます。
関東地方に「はしか」の集団発生があるという報道が4月にはいってから相次ぎました。
「はしか」は例年4〜6月に流行のピークがありますが、今年は既に最近の年間患者数を上回るペースで「はしか」の患者数が増加しています。
「はしか」は飛沫感染(空気感染)、接触感染等、様々な感染経路を示す疾患で感染力が極めて強いのが特徴です。
特に3月は卒園式、卒業式があり、4月に入ると入園式、入学式、始業式、入社式等多数の者が一同に会する機会が多く、これ等の行事に参加した者に「麻疹ウイルス」の感染機会が発生します。約10日程度の潜伏期を経て4月中旬から発病が増加することとなります。
先進国では「はしか」の発生や致死率は低下していますが、日本は発生率も入院率もまだまだ高く、欧米からは「はしか」の輸出国という非難を受けているのが現状です。
日本から欧米、特にアメリカの小中学校へ入学する際には厳しくチェックされることを経験された方もいると思います。これは「はしか」の予防接種率が低いことが原因といわれています。

「はしか」の集団発生は何処が多いですか?

2007年の14週(4月2日〜4月8日)の感染症動向調査(厚生労働省)によると関東地方からの報告が多く、報告数の多い順に埼玉、東京、神奈川、茨城、栃木、群馬の各県から報告されています。
この数は日本全体の報告数の78%に相当します。
4月27日には宮城県(仙台市)や三重県、山梨県からも集団発生の報告があり、過去10年間では最多の規模となる可能性があります。
これをうけて、千葉県、茨城県、三重県等の衛生部危機管理室はホームページで「はしか」のワクチン接種を呼びかけています。

今年の流行の特徴はありますか?

今年の「はしか」の流行の特徴は「はしか」罹患患者が成人にも多くみられることです。
創価大学(八王子市)では学生と職員が「はしか」に感染したことから、大型連休明けまで全授業を休講することを4月18日に発表しました。国士舘大学でも学生の発病があり、「はしか」に罹ったら解熱しても三日間は登校しないようにと健康管理室が4月26日に指示を出しました。
成人が罹ると重症化する例が多く、入院することも珍しくありません、集団発生を防ぐには、その集団の95%が免疫を獲得している必要があると言われています。
都内で学級閉鎖を行ったのは公立小、中学校が各一校、公立高校が二校です。(4月18日現在)
大田区保健所健康推進課の大田区週報(4/9〜4/15)によると大田区のこの週の新規発生は0件でした。
大型連休による旅行者の増加等により流行は全国的に拡散される恐れがあると警戒されています。

「はしか」の予防接種について教えて下さい?

「はしか」の予防接種は平成18年4月1日から接種方法が変更されました。
これまでの1回接種法から2回接種法に変わりました。1回目に出来た免疫をさらに強化するために2回法となりました。時期は1歳(生後12か月)から2歳の期間に1回目を接種し、5歳から7歳の期間に2回目を接種します。ワクチンもこれまでと異なり、風疹と麻疹の混合ワクチンでMRワクチンと呼ばれるものです。
このワクチンによる抗体獲得率は98%といわれています。
日本では予防接種への取り組みが不十分なため、他の先進国に比べて「はしか」の発生率が高いことは世界的に有名です。因みに我が国の1歳児の接種率は約50%と言われています。

「はしか」の症状は?

「はしか」に罹ると、まず38〜39度の発熱があります。鼻水、結膜炎による充血、目やに等が出て1〜2日後に全身に赤い発疹が出ます。コプリック班と言われる白い斑点が口内にできます。
成人の「はしか」は男性に多い傾向があります。
成人が罹ると典型的な症状を示さないことも多く、早い時期に医療機関を受診することを勧めます。


平成19年4月

お酒について

 前回までは職場のストレスについて書かせてもらいました。今回はストレス解消にも関係の深い「お酒」について書いてみます。
お酒のもたらす効果 お酒は昔から「百薬の長」と言われますが、それも飲み方次第であることはご承知のとおりです。
では、よい効果から上げていきますと
 1)精神的リラックスが得られる。
 2)緊張がとれることによる疲労回復。
 3)食欲増進作用(胃液分泌の促進)。
 4)血液循環の改善等があります。
しかし、飲み方次第では、酒は「命を削るカンナ」といわれ、肝機能障害、消化器系の病気(胃炎、胃潰瘍、膵炎)、生活習慣病(高脂血症、肥満、糖尿病、高血圧等)、アルコール依存症等を引き起こします。

アルコールと肥満
 アルコールは予想以上にカロリーが高い上に食欲増進作用があるために肥満につながります。
例えばビール大瓶1本のカロリーを消費するにはゴルフですと48分間プレーする必要があり、卓球ですと30分間プレーしなければ完全には消費しません。
日本酒お銚子1本(150ml)を消費するには急ぎ足41分かジョギング27分が必要です。
 また、別の比較では、ビール大瓶2本はラーメン1杯に相当し、ビール中生3杯は牛丼1杯に相当します。したがって、飲みすぎのアルコールを消費させる運動は容易なことではありません。
それを考えたら飲酒は適量にしましょう。

節度ある適度な飲酒
 「健康日本21」という国民運動が平成12年から始まっていますが、その中で、健康に害の無い飲酒量は純アルコールに換算して1日20グラムといわれています。純アルコール量の20グラムはビールで中ビン(500ml)1本、ワインでグラス2杯(240ml)、焼酎1合(180ml)、ウイスキーダブル1杯(60ml)日本酒1合(180ml)です。
この中の一種類だけが1日量です。全種類の合計ではありません。
皆さんの飲酒量は適正でしょうか?その日の雰囲気や仲間によって、つい過量になっていませんか。

最後に適正飲酒の7カ条を上げます
 1)自分のペースでのんびりと飲もう、強制はしない。
 2)自分の適量を知ろう。
 3)食べながら飲む。
 4)強い酒はうすめて飲む。
 5)週に2日は休肝日。
 6)タバコと一緒に飲まない。(肺がんの心配)
 7)薬と一緒に飲まない。(睡眠薬、精神安定剤等)
妊娠中、授乳中の飲酒はやめましょう。妊娠中の飲酒は胎児性アルコール症候群の赤ちゃんが生まれる可能性があります。授乳中の飲酒も母乳をとおしてアルコールが赤ちゃんに到達して、発育に悪影響があることが分っています。


平成19年3月

心の健康チェック

 職場には多くのストレスがあります。自分にとって「嫌なこと」や「失敗」等に遭遇するとストレスを感じ様々な反応を起こします。
 身体的反応と精神的反応に分けられますが、図1のような関係になります。
ストレスによって起こるうつ病をはじめとする多くの「ストレス病」は仕事の能率を低下させ、ミスや事故を発生させる原因となります。
 職場では、社員の「ストレス病」による変化を早い時期に上司や同僚が発見して支援してあげることが大事です。
 上司、同僚、家族の支援があれば「ストレス病」になりにくく、仮に「ストレス病」に陥っても立ち直りが早いといわれています。
表1は周囲が気付いて上げなければいけないストレスサインです。
お互いに気をつけてあげましょう。

 図1 

表1 
周囲が気づくストレスサイン
・1.以前に比べて表情が暗い、元気がない。
・2.体調不良を訴える。(身体の痛み、倦怠感)
・3.仕事、家事の能率低下。
・4.遅刻、早退、欠勤の増加
・5.趣味、スポーツ、外出しなくなる。
・6.飲酒量の増加。


平成19年2月

こころの健康チェック

はじめに
 長い不況を経て、最近は景気の回復が大きく喧伝されるようになりました。特に政府や行政機関の発表は景気の回復が有史以来の長期間に亘って持続していると報じています。
 しかし現実は企業規模や業種によって較差があり一般的には厳しい経営を強いられている実態があります。
 生き残るためには経済効率を最優先し、成果主義を徹底することが要求されるようになりました。
 その結果、経営者の雇用に対する意識も労働者の就労意識も変わってきました。
そして、以前には想像できなかったメンタルヘルスの問題が大きく注目されるようになってきました。
 事業の国際化、I.Tの発達による作業内容の緊密化、職場の人間関係の変化、短時間労働者(パート)の増加等職場のストレス要因は増加の一途をたどっています。
そこで、今回は「こころの健康チェック」を企画しました。

以下の18問に答えていただいて「はい」の数が多いほどうつ病の可能性が高いと言われています。
うつ病に陥ると作業能率の低下やミスの多発につながります。では、始めてください。

1)いつもより早く眼が覚める。 (はい・いいえ)
2)朝、起きたとき、陰気な気分だ。 (はい・いいえ)
3)新聞、テレビを見る気にならない。 (はい・いいえ)
4)服装、身だしなみに無関心になった。 (はい・いいえ)
5)仕事にとりかかる気にならない。 (はい・いいえ)
6)仕事しても根気が続かない。 (はい・いいえ)
7)物事に決断がつかない。 (はい・いいえ)
8)気軽に人に会う気にならない。
(はい・いいえ)
9)なんとなく不安、イライラする。 (はい・いいえ)
10)これから先やっていく自信が無い。 (はい・いいえ)
11)この世から消えたいと思うことがある。 (はい・いいえ)
12)テレビが以前のように面白くない。 (はい・いいえ)
13)淋しくて独りでいたくない。 (はい・いいえ)
14)涙ぐむことが多い。 (はい・いいえ)
15)夕方になると気が楽になる。 (はい・いいえ)
16)頭痛、頭重が多い。 (はい・いいえ)
17)性欲が落ちた。 (はい・いいえ)
18)食欲が落ちた。 (はい・いいえ)


次回はメンタルヘルス対策を書く予定です。


平成19年1月

感染性胃腸炎 「ノロウイルス」

 感染性胃腸炎という診断名は様々な原因による症候群を指し、ウイルスや細菌によるものの外、寄生虫によるものもあります。冬季に発生する感染性胃腸炎の殆どがウイルスによるものです。
 原因ウイルスとして、ノロウイルス、ロタウイルス、アデノウイルス、アストロウイルス等が知られています。
 一方、原因となる細菌としてはサルモネラ、カンピロバクター、エルシニア、病原性大腸菌、腸炎ビブリオ等が知られています。感染性胃腸炎は例年初冬から増加し始めて1〜2月にピークを迎えます。

ノロウイルス
 ノロウイルスは元来、小型球形ウイルス(SRSV)と呼ばれていたものですが2002年8月の国際ウイルス学会でノロウイルスと命名されました。
 本年の第47週における全国3000箇所の小児科定点調査等を基にした感染性胃腸炎の報告数は過去最多を記録しました。
 1981年7月に感染性胃腸炎の発生動向調査が開始されて以来の最高値となり過去最悪を更新中であります。この時期に発生する感染性胃腸炎、特に集団発生例の原因の多くはノロウイルスによるものと推測されています。

ノロウイルスはどうやって感染するの?
1)汚染された貝類を生あるいは十分過熱調理しないで食べた場合
2)食品取扱者が感染していて、その者を介した食品を食べた場合
3)患者のノロウイルスが含まれる糞便、吐物から人の手などを介して二次感染したもの
4)家庭や共同生活施設などヒト同士の接触機会の多い所でヒトからヒトへの飛まつ感染等
5)ノロウイルスに汚染された井戸水、簡易水道を消毒不十分で摂取した場合

ノロウイルスの感染は海外にもあるの?
 ノロウイルスは世界中にひろく分布していて、アメリカ、イギリス、フランス、スペイン、オランダ、スイス、アイルランド、ニュージランド、オーストラリア等で報告されています。

感染するとどんな症状になるの?
 潜伏期間24?48時間、吐き気、嘔吐、下痢腹痛があり、発熱は軽度。これらの症状は通常1〜2日で軽快し後遺症もありません。

治療法はあるの?
 このウイルスに効果のある抗ウイルス剤はありません。通常、対症療法です。脱水症状を防ぐため水分と栄養の補給を十分に行います。

診断のための検査は?
 このウイルスによる病気かどうか臨床症状からだけでは特定できません。
通常、患者の糞便や吐物を用いて、電子顕微鏡法、RT-PCR法、リアルタイムPCR法等の遺伝子を検出する方法でウイルスを特定します。

予防法は?
1)食事前やトイレ後の手洗いの徹底、調理、配膳の際もしっかり手洗い。
2)下痢、嘔吐の症状のあるヒトは食品を直接取り扱わない。
3)汚染の恐れのあるものは塩素系の消毒剤や加熱殺菌(85度以上で1分以上)
  汚物のついた衣類を洗うときは、まず水洗いして、塩素系漂白剤で消毒する。吐物や排泄物が床についた場合は使い捨てマスク、使い捨て手袋を着用してペーパータオル等でウイルスが飛び散らないように静かにふき取る。
  吐物からの飛沫による感染もあるので注意を要する。
  ふき取った後は塩素系漂白剤で床を消毒しその後、水ぶきする。
  ウイルスは乾燥すると空気中を漂い、これが口に入ると感染する。排泄物、吐物は乾燥する前に処理することが肝心です。
 加熱用食品はしっかり、中心部まで加熱して食べる。調理器具の使用前、使用後の洗浄、殺菌も重要です。
 カキ等の二枚貝は大量の海水とともにプランクトンを体内に取り込み濃縮する性質があり海水が汚れていると食中毒の原因となります。この季節の生食は避けましょう。