かけはし誌上コラム(かけはし掲載分) 羽田鉄工団地協同組合

後藤辯護士による法律相談コーナー
最新号(平成27年12月)
平成27年  1月 「千年企業の復活・大逆転について」
2月 「時間外労働、休日労働等による割増賃金についての続き」
3月 「新入社員のために〜わたしたちは何のために働くのだろうか〜」
4月 「業務上うつ病を発症したとの訴えについて」
5月 「続・業務に起因するうつ病の発症について」
6月 「業務上起因する」について
7月 「社員教育の要諦について」
8月 「東京を中心とした雇用就業状況から経営を考える」
9月 「コーポレートガバナンス(企業統治)はどうあるべきか」
「〜東芝の不適切会計問題から学ぶものは何か〜
10月 「ストレスチェック制度について」
11月 「コーポレートガバナンス(企業統治)再説」
12号 「パワハラとその対策例について」



平成27年12月

「パワハラとその対策例について」

1.企業において、ハラスメント問題で頭を悩ましている経営者は少なくない。名経営者になればなるほどハラスメントなどない企業として評価を受けているのであろう。

2.ハラスメントには、大きく分けて、セクシュアルハラスメント(セクハラ)とパワーハラスメント(パワハラ)とがある。
 セクハラは、被害者の主観的受け止め方で判断される。相手方の意に反する性的言動がこれに当たるとされるからである。パワハラはそうではない。パワハラとは、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」であるから、この「適正な範囲を超えて」いるかどうかは客観的に判断される。客観的にということは、最終的には裁判所が判断することとなる。もっとも、実務上は、裁判例の積み重ねを踏まえて、その判断基準を参考にして対応しているということになる。
 セクハラについては、男女雇用機会均等法に規定がある(同法11条1項)。しかし、パワハラについては明文がない。そのため民法の不法行為の法理に基づいて判断されることとなる。
 従前から述べているように、セクハラ的言動は、業務の遂行上全く不要であるため、職場に、セクハラはあってはならないものである。この点、パワハラの判断は極めて難しい。業務の遂行過程における言動が、業務の適正な範囲を超えているかが問題とされるからである。職場では、上司が部下に対して、業務上の注意、指導、叱責等を行うのは日常のことである。上司である以上、職場内の優位性は当然である。この職務上の地位に基づいて行う業務上の注意、指導、叱責等は、当然想定されているし、これを受ける社員側もその心構えができているはずである。この日常行われるところの注意、指導、叱責等が業務の適正な範囲を超えているときに、パワハラとして問疑されることになる。もし、上司がこのようなパワハラに問疑されることから逃避しようとして部下に対する注意、指導、叱責等を行わなくなった場合、企業は企業としての体を成さなくなるおそれがある。
 パワハラに当たる言動としては、暴行(傷害)、暴言、脅迫、名誉毀損、侮辱、隔離、仲間外し、無視、仕事の妨害、明らかに不要なあるいは困難な業務の強制(過大要求)、明らかに程度の低い仕事の強制や仕事を与えないこと(過少な要求)、私的なことに過度に介入すること(個の侵害)等が典型例として挙げられる。
 これらが職務上の地位の優位性を背景にされるのが典型的なパワハラである。
 例えば、他人には暴力を振るようなことはない上司が部下に対して暴力を振るうということがあれば、一般的にはその優位性を背景にして行ったものであろうからパワハラとされるであろう。
 パワハラ自体は、犯罪行為ではないが、これに該当する上記言動は、ひとつひとつを検討してみれば理解できるが、暴行罪、傷害罪、脅迫罪、名誉毀損罪、強要罪等に当たるから、こじれば、刑事事件に発展することもあり得る。
 企業は、上司を使用するものであるから、使用者責任を問われることが一般的である。

3.経営者は企業内でパワハラが起きないように十分に指導、教育、啓発等に努めていると思う。
 パワハラに当たる言動とは何かについても口を酸っぱくして説明しているはずである。しかし、それでも起きてしまうところに深い問題がある。
仮に不幸にもパワハラ事象が起きたとすれば、その原因究明と効果的な再発防止策を講じなければならず、そして、なんとしてもパワハラのない活気ある健全な職場環境を構築する必要がある。
 企業には、当然のことながら、パワハラ事象など起きないように、万全の措置を講じ、社員に対する安全配慮義務にも意を尽くす義務がある。
 それでも、起こり得ないはずのパワハラ事象が、しかも信頼できる管理職辺りから起きてしまうものである。
 パワハラに当たる言動例を挙げて、職場内ではこのようなことはけっして起こしてはならないことを説くのは当然であるし、職場内の秩序維持や改善のために、当該者を就業規則上の懲戒処分に付すこともあり得る。
 しかし、肝要なのは、パワハラ撲滅とそのような事象が起きることのない職場環境の構築である。適切に原因追求し、有効な再発防止策を講じなければならない。
 パワハラを行ったという上司(管理職)が何故パワハラとされる言動を行ったのか、また、部下は何故パワハラ言動を受けることとなったのか。
 単に、パワハラ事象として捉えるだけでなく、組織の在り方について問題はなかったのか、上司も組織の被害者となっていないか、部下にも問題があるのではないかという観点からも検討することが要請される。
 良く話しを聞いてみると、上司もやりたくてパワハラを行っているのではないことが分かる。上司は、一生懸命、企業のために仕事を遂行しようとして起こしていることがある。組織の方針、構造を変えない限り再発を防止できないこととなる。また、「被害者」ではあるが、部下にも問題があることがある。業務遂行上において、上司の注意、指導、叱責等を真摯に受け止めて、改善策を講じるべき職務専念、忠実義務があるのにこれを怠っている場合もあるからである。これらの問題を解決しない限り、有効な再発防止策は生まれないであろう。

4.企業においては、上司が萎縮したり、事なかれ主義の職場になるようなことがないようにしなければならない。そして、仮にもパワハラ事象が起きてもそれが解決した後は、上司と部下が、晴れ晴れとした顔つきで職場に復帰できるような企業であればと思う。


平成27年11月

「コーポレートガバナンス(企業統治)再説」


 前々号では、東芝の不適切会計問題から、コーポレートガバナンスとは何かについて若干の検討をしたが、最近でも国内外に改めてこのことを考えさせる事例が発覚したので、再度取り上げることとしたい。
 それにしても、有名企業の不祥事は続く、といった感じである。コンプライアンスやコーポレートガバナンスはどうなっているのだろうかと思われてならない。

1.海外では、ドイツのフォルクスワーゲン社のディーゼル車の排ガス規制逃れ問題を取り上げなければならない。
 軽油を使うディーゼルエンジンは燃費性能は高いが、窒素酸化物など有害物質の排出量が多い。最近の環境問題への関心の高さから、排ガス規制の厳しい条件をクリアする必要があることになる。フォルクスワーゲン社は、主力のディーゼル車の排ガス浄化能力を偽るソフトを搭載したという。検査時だけ有害物質を減らせる違法なソフトウエアを使用したとのことである。走行中は、実に、規制値の最大40倍の有害物質を排出していたといわれている。
 会社は、組織ぐるみを否定し、少数の技術者などが関与した、としている。製品の信用が損なわれただけではなく、リコールの対象車は約1100万台にのぼり、対策費として1兆円近い特別損失を計上しているという。
排ガス規制の逃れの違法ソフトによりコストを削減し、収益を上げようとしたのであろうが、かえって、信頼の喪失と対策費を考慮すれば、極めて高いものについたといわなければならない。
 会社は、早速、派遣社員のリストラの検討を始めたとの報道がある。経営危機に備えた人員削減の一環と考えられよう。
 会社は、経営トップの関与を否定しているが、その不正の底流に、この会社が創業家を頂点に階層がはっきりしており、コントロールが非常に効いた組織であり、トップが望めばそれが成される会社である、と評されていることが指摘されている。
 東芝の不適切会計問題と似たような土壌があることが窺われよう。
 不正の土壌は共通するのかも知れない。

2.国内でも、三井不動産レジデンシャルが販売したマンションの傾斜問題を取り上げなければならない。
 杭を打ち込むためにドリルで地面に穴を開け、ドリルにかかる土の抵抗値により、固い地盤の支持層に届いているかどうかが分かるが、抵抗値は、波形のデータで記録されるという。杭が支持層に届かない短いものであったため、長い杭を手当するのではなく、データを改ざんして届いたかのように虚偽データを作成したということが判明している。杭打ち工事のデータの改ざんが明らかにされたのである。さらに杭の先端と地盤を固定するためコンクリートを流し込むセメント量のデータも改ざんされていたという。セメント量が不足すれば基礎本来の強度が得られない。このようなマンションに瑕疵があり、欠陥建築物であることは間違いがない。しかも、居住する人の安全性にも強く関わっているから重大である。
 杭代やコンクリート代を浮かすためにこのようなことをしたのであろうか。しかし、この例でも、発覚により、かえって、マンションの建て直しを提案しなければならない事態に陥っている。企業が信頼を失えば厳しい選別を受けることになることは間違いがない。
 この例では、マンションの傾斜の原因が基礎杭の問題にあることが自白する形で判明したが、このような建物の傾斜が問題となったとき、通例は、宅地造成工事を行った業者に造成上の瑕疵があるのではないかなどとされることが多い。建築業者がこの例のように、基礎杭に問題があったという証拠資料を提出しないかぎり、宅地造成上の瑕疵として片づけられる場合が多いのである。
 いわれなき宅地造成工事業者が巻き込まれなかったのはせめても救いではある。

3.何故、このようなことが起きるのだろうか。 排ガス規制逃れ問題も、杭の問題も「データの偽装」であるから「故意」によるものである。
 故意による不正が企業において平気で行われるということに驚かざるを得ないのである。
 私企業が収益を追求することには何の問題もない。しかし、真の収益性に繋がる経営でなければならないが、不正が結果的に会社の存亡に影響することを忘れてはならない。
 元も子もなくしてしまうのである。
 不正やミスをチェックする体制作りは避けられないが、かかる体制を整備することだけで抜本的に解決できるのであろうか。経営監視のために社外取締役の登用をコーポレートガバナンスの中心に据えるだけでは足りないように、チェック体制の整備を叫ぶだけでは足りず、もっと根本的に欠けているものがあることに気づかなければならないように思われてならない。



平成27年10月

「ストレスチェック制度について」

 本号では、平成26年6月25日に労働安全衛生法が一部改正され、平成27年12月1日に施行のストレスチェック制度の導入について取り上げます。

1.ストレスチェック制度とは、事業者たる会社に、従業員の心理的負担(ストレス)の程度を把握するための検査を実施し、検査結果に基づいて、従業員が医師面談の指導を受けられる体制の整備をすることを義務付けるものです。
 この制度は、会社に義務付けるものであって、従業員に対し、ストレスチェックの受検を義務付けたり、その検査結果が悪かった場合に医師の面接指導を義務付けたりするものではありません。従業員の意思が尊重されます。
 また、会社は、従業員の個人情報を厳守しなければなりませんので、会社側から個々のストレス状況を把握することはできません。
 ストレスがメンタルヘルス不調の要因とも考えられます。そのリスクを軽減するためのものであると考えて、従業員がそれぞれ自己のストレス状況の有無、その程度等を自己管理の一環として活用できるようになればよいと考えられます。もし、ストレスが重度な状況にあると思われる場合は、これを重度化させないための予防策として利用されると良いと思います。
 ストレスチェックは、会社の生産性の向上を考えるうえで行われる面もありますが、やはり人財としての従業員の精神的不調阻止のためにあるものと考えるべきでしょう。
検査結果の評価は、専門的知識があり有資格者の医師、保健師等が行うこととなります。
 ストレスチェックに使用するソフトウエアは、厚生労働省が無償提供しています。

2.会社は、従業員が50人以上である場合、ストレスチェックに加え、労基署へのその実施状況を報告する義務があります。この報告義務違反には罰則があります。50人未満の会社は、当面努力目標となります。
 もっとも、報告義務があるからといって、すべての従業員にこのストレスチェックをしなければならないということまで強制されていませんので、例えば、従業員50名中、5名に実施したという報告でもこの義務を履行したこととなります。
 したがって、従業員全員が受検しないとこの義務を履行したことにならないということにはなりません。
 しかし、法の趣旨、目的は、会社において、定期的に従業員の心理的負担を把握するための検査を行い、受検した本人にその内容を知らせ、自身のストレスの状況を理解させるというにありますから、できるだけ多くの方に受検して貰えるように努力することが期待されますし、そのための啓発活動や周知徹底が望まれ、従業員がチェックを受けやすい土壌を作ることが必要となります。

3.今後この制度を導入することとなりますが、実施上の注意点もあります。従業員が真摯に回答してくれることが前提として期待されるところですが、場合によっては、ストレスチェック事項についての回答を恣意的に行い、あるいは悪用して、自分の嫌がることをしなくともよいようにするとか、不当に上司を貶めるようなことも考えられないではありません。

4.法の制度からすれば、平成28年11月30日までにこのチェックを1回実施すれば法的義務は履行したこととなるというものですから、特に、いま急がなければならないというものではありませんが、仮に、来年の秋ころを目途に実施しようとする場合でも、会社としては、ストレスチェック制度の導入に向けて具体的に検討し、それまでに体制作りをしておく必要が現実化したものと思います。




平成27年9月

「コーポレートガバナンス(企業統治)はどうあるべきか」〜東芝の不適切会計問題から学ぶものは何か〜

1.8月14日付け日経新聞朝刊トップ記事は、「東芝に企業トップ経験者」の大見出しのもと、東芝に社外取締役として次の方々を迎え入れる方向で調整中であることを報じています。
 アサヒグループホールディングス相談役I氏(75歳)、三菱ケミカルホールディングス会長K氏(68歳)、資生堂相談役M氏(68歳)ら大手会社の社長経験者と元最高裁判事(検察官出身)F氏(73歳)、公認会計士で元証券取引等監視委員会委員N女史(76歳)らの企業犯罪を数多く摘発してきた経験を持つ方であり、同氏らには経営監視のプロとしての役割を期待するものとみられています。
 これにより東芝の取締役の過半は社外取締役で占められるということになります。
東芝は、経営を監視する体制に刷新し、企業統治(コーポレートガバナンス)を強化して、不適切会計問題で失墜した信頼の回復を急ぐと報じられています。
 さて、それほどまでにして、監視しなければならない経営というのは一体どういうものなのでしょうか。経営の本質は、監視にあるのでしょうか。
日本的経営と欧米的経営には違いがあると言われますが、欧米的分析経営手法に過剰に反応すると、コンプライアンス過多に陥り、活力を失い、組織能力が弱体化するということは夙に指摘されてきたところです。
私見によれば、社外から取締役を招聘し、自社生粋の社内取締役を超える人数をもって取締役会を構成しなければ、正当な経営ができず、コンプライアンスやコーポレートガバナンスも守れないということは、一体どういう会社なのかと思ってしまいます。
 また、何か事が起きると外部委員会に頼らなければ、病弊が分からず、自浄能力も発揮できないという会社も一体どういう会社なのだろうかと考えてしまいます。
 外部から人材を招聘しなければ成り立たない会社は、あたかも臓器移植を繰り返さなければ生き延びられない人体のように、組織は既に衰退していると言わざるを得ません。
 このことから学ぶべきは、こうなる前に経営者は適切に有効な手を打たなければならないということでしょうか。

2.東芝は、逸早く、経営の透明性を高めるため、ということで、平成15年に執行と監督を分離する委員会設置会社に移行した会社であることは広く知られています。
 しかし、何故、今度の不適切会計問題が発生し、これを防止できなかったのか。
社外取締役を多数入れることが有効な再発防止になり得るのか、ということに帰するわけですが、果たして、汗水流して働いている一般社員の方々の意見はどうなのでしょうか。
 前述したような、東芝の経営体制の刷新の在り方は一般社員の望むところなのでしょうか。一部経営者の自己保身等のために、あるいは、手っ取り早く、外部評価を得ようとするためだけの上からの押し付けということになると、一生懸命働いている一般社員の理解は到底得られないように思われます。本当に自社内にそのような能力を持った人材はいないのでしょうか。組織としての教育はどうなっていたのでしょうか。
 社外から、取締役を入れるのは、しがらみを受けず、公正、公平にチェックができるからといわれます。しかし、要は、外部かどうかに関わらず、公正、中立、公平、専門性、透明性あるチェックができる組織でなければならないということにあります。かような人材を育成しておくということが大事なのではないかと思います。
外部の方であるということだけで、当然に、公正、中立、公平、専門性、透明性あるチェックができるということにはなりません。現に、東芝でも委員会設置会社として外部の取締役等を多数選任していたにも関わらず、それが実現できなかったからです。
 翻って考えてみると、社外取締役の制度や委員会設置会社の制度がなかった時代、あるいはコンプライアンスやコーポレートガバナンスがこれほど叫ばれていなかった時代の日本企業はいまよりも悪質な不祥事が頻発していたのでしょうか。発展していなかったのでしょうか。逆に、かような制度を導入している欧米企業には、もはや悪質な不祥事は発生していないのでしょうか。けっしてそうではないことに気づかされます。

3.むしろ、社外の取締役を入れなければ、コンプライアンスやコーポレートガバナンスの遵守ができないと受け止めている会社(経営者)自身にこそ問題があるのではないか、ということです。もはや自らはそれができない組織であると認識せざるを得ないと判断していることにこそ問題があると思われます。
東芝は、経営刷新委員会(委員長は社外取締役I教授)を立ち上げ、新たな経営陣の枠組みや内部統制の強化を議論してきたということであり、前述の最高裁判事は、このメンバーのひとりであるという。
しかし、日々継続して行われる会社の経営に第三者である社外取締役や社外監査役が入ったからと言って当然にうまくいくとは限らないのではないでしょうか。
 会社は、ひとにぎりの経営者のみによって経営できるものではなく、汗水流して働く大勢の一般社員による全員経営でしか成り立たないように思われます。
「経営を監視する体制に刷新」とは、一般社員に対して向けられたものでないことは当然として、経営者に向けられたものである以上、経営者の心に潜む悪魔をいかにして排除するか、悪しき誘惑をいかにして排除するかにあることを考えなければなりません。
 制度とか枠組みさえ作れば、うまくいくというものではなく、要は、経営者の良心にあるということに気づかされます。
一般社員にとって、監視しなければならない経営者をトップに頂かなければならないのは、極めて不幸な状況にあるものと言わなければなりません。
 百年企業の東芝が、いまや経営者をがんじがらめの監視体制下に置かないと立ち行かないという会社ではないことを切に祈るだけです。

4.東芝の事例は、改めて会社は一体誰のためにあるのか(一握りの経営者のものではない)、誰のための経営か(経営者のためだけものではない)、何を基準に経営をするか(世のため、人のためになる会社でなければならない)を問う典型的なものとなるのではないかと思います。
改めてコーポレートガバナンスやコンプライアンスを考える格好の素材を提供してくれたものとして謙虚に受け止め、今後の他山の石としたいものです。


平成27年8月

「東京を中心とした雇用就業状況から経営を考える」

1.本号では、東京圏を中心にした「雇用就業状況」を考慮して、これを経営にどう活かすか、活かせるかについて考えて見たいと思います。数字は、特に断らない限り、2010年から2015年までのものです。

2.東京は、日本経済の中心圏に位置します。

 ところで、東京の雇用就業状況の特徴は次のとおりです。
○少子高齢化
 特殊出生率(1.13)は全国平均より低く、東京の女性は子どもを産まないし、その25%は専業主婦と言われますから、現金収入を得ていないということになります。また、高齢化が世界の諸都市のそれに比較して急速に進んでいます。75歳以上の人口(2015年147.3万人)が2025年(197.7万人)になります。50.5万人が増える勘定になります。2035年までに3人にひとりが65歳以上となります。
 「老いる東京」と言われる。
 入院や介護を要する者が急増し、そのための病院や介護施設の人材確保が必要となります。
 15歳から64歳までの生産年齢人口が減少し、65歳以上の人口が増える。すなわち、非労働力人口の増加します(男女とも65歳以上で大きく減少する有業者数)。
 しかも、就業者の4人にひとりが55歳以上ということです。
 このような状況下で、雇用をどのように考えるか、元気な高齢者を「再雇用」することで経営に活かすことができるのか。おそらくフルタイムの雇用ではなく、限定的な雇用態様になるものと思いますが、それをどのように制度化するかが問われます。
 なお、「働けるうちはいつまでも」働きたいという人は4人にひとりいるということですから、単に、生き甲斐のために働く、というばかりでなく、自らの知識・経験・ノウハウ・人脈等を活用し働きたいという人も多いということだと思います。
 それを活かさない手はありません。
 経営者としては、高齢者の多様な就業ニーズのためには、その就業支援と就業機会の提供をも考えながら、有効に活用する方法を講じなければなりません。

○女性の活用
 世に男女しかいないのですから、凡そ半分の人口を占める女性の力を活用することはどうしても必要となります。
 東京都も国も、女性の多様な働き方を支援し、社会的活躍を促進しようとしています。女性にもリーダー級の職務を経験させたり、転勤を伴うコースも導入したりしています。
 また、女性の就業分野の拡大には著しいものがあります。最近女性が運送業、建設業(建設小町)、林業(林業女子)、左官、電気業者など、かつて男世界と言われた分野に若い女性が進出しています。やればできる、というところでしょうか。男性を凌ぐ能力を発揮している女性も少なくありません。このことを経営においても考慮せざるを得ないと思います。
 女性有業者数が増加しています。42.5%(311.2万人)です。
 ただし、女性労働の場合、一旦、30歳代で女性労働力率は落ち込みます。出産・育児のため求職活動できない時期があるためです。そして、復帰後はパート、アルバイト等で働く人が多いという統計です。男性に比べてその働き方はパート、アルバイトの非正規社員が多くなることが特徴です。正社員を続けることが難しいのだろうと思いますが、正社員のままで継続して働くことができる制度にしている会社もあります。
 会社の歴史、伝統、技術等の継承等を考慮した場合、どうあるべきか、経営者も慎重に考えるべき問題のひとつです。
 経営者は、労働環境・職場環境にも目を光らせなければなりませんので、平等、公平、公正な人事労務管理になるように配慮しつつ、出産・育児・介護等に時間を取られる社員の働き方にも注意をしなければなりません。

○学生の活用
 18歳人口の減少は言うまでもない事実です。しかし、高等教育機関進学率は上昇傾向にあるため、一定数の学生は確保されます。その学生の4分の1は東京に集まっているのです。これを活かさない手はありません。若者のキャリア形成と正規雇用化の促進を図る動きがあります。年間5000人、3カ年で合計1万5000人を正規雇用化する、と東京都は言っています。
 将来を担う人材をいち早く見つけて確保する、ということも経営者の仕事です。
 採用したい人を採用できる会社になるために、経営者はどういう経営をすべきかが問われます。

○派遣労働者の登録者数の減少傾向(平成20年の約90万人から45.2万人)が見られます。
 そのような中での今年10月1日の労働者派遣法の施行(違法派遣の場合のみなし申込等)と現在改正作業中の労働者派遣法にも関心が持たれます。
 派遣労働者を使用しない会社は別ですが、そうでない会社としては、この労働者派遣の法の仕組みについても注意していかなければなりません。

○外国人労働者数の増加傾向(78.8万人)には注目しなければなりません。流石に東京ですから、圧倒的な数の外国人が働いています。文化もお国柄も異なる人を雇用するのですから、難しい問題もあります。しかし、外国人も労基法上の立派な労働者ですから、法が労働者を保護するために規定している条項はすべて外国人労働者にも適用されるということを忘れてはなりません。

○高卒就職者の4割、大卒就職者の約3割は、3年以内に離職する、ということにも関心を持たなければなりません。折角、指導教育しても、3年以内にその人材を失ってしまうのではもったいないです。
 若者の離職率は、定着力のある会社になるためにはどういう会社でなければならないか、経営者はどこに重点を置いて経営を心掛けなければならないかを考える契機になります。



平成27年7月

「社員教育の要諦について」

 社員の中からいかにして人財を発掘していくのか。経営者には、それぞれのノウハウがあるものと思われる。

1.最近読んだ岩瀬達哉氏の「パナソニック人事抗争史」(平成27年4月1日発行)は、パナソニック(旧松下電器産業)のような日本を代表する会社として隆盛を極め、長く世界のトップブランドとして君臨してきたような大会社でも、いつのまにか経営不振を招くようになってしまった主たる原因を人事の経験則が守られなかったことによるものである、と断じています。 
 業績不振については、経営トップによる経営改革が何度も試みられたことはいうまでもないのでしょう。しかし、人事抗争がその肝心の経営の足を引っ張り続けることとなったとされています。かように、どんな会社でも人で成り立つ以上、人事は避けられませんが、大事なことは保身のために抗争することなどではないのです。会社は、一体だれのためのものか、私たちは何のために働くのかを自省しながらも、「人間として何が正しいか」をもって行為の判断基準としなければなりません。
 このような判断基準を身に付けさせるための社員教育が必要です。

2.個性ある人間力の大切さ
 社員は、いずれ交渉力が要求される地位につくことになります。交渉に当たっては会社が背景にあることはいうまでもありませんが、最後は担当者の人間力が決め手になります。
 この人間力をいかにして身に付けさせるかが大事です。相手方から「君となら話をしましょう。」と言われるほどの個人としての人間力を身に付けた社員になってほしいものです。
 ただし、このような注意も必要です。営業努力によって仕事を取るのでなく、人間関係で仕事を取る場合もあります。しかし、この場合、内容の詰めが甘くなることがあるので注意が必要となります。口約束で事を済ますことの方が良い場合もあるかも知れませんが、ひとりで会社の仕事をしているわけではないということ、担当者の交替があっても会社の方針を貫かなければならないこと、さらには後日、紛争が起きたときの解決基準は、口頭による(言った言わないというレベルの)ものではなく、契約書の記載内容すなわち明確な合意事項が基準となるものです。契約書をきちんと作成していたならば後日に紛争の種を残さなかっただろうという場合は意外にあります。「信頼関係だから信用しました」というのは会社として仕事を遂行する以上は、避けなければならない。
 「天候さえ良くなれば売り抜きます」と天候のせいにする場合があります。それを根拠にするのであれば、過去何十年間にわたる気候を調べ、真夏日が何日あるかを調べたりしたうえで、根拠をもって説明しなければなりません。単に天候のせいにして売れなかったことを弁解するのでは能力のある社員としての評価はできません。

3.経営者的素養の必要性
 平社員でも経営者的思考、発想等を持つことが必要です。人は「リーダーとしての力と魅力と牽引力」を持たなければならないが、それが最初から備わっている訳ではないのです。日々しっかりとこの点の素質の涵養に努めなければいつまで経っても、平社員のままでしょう。いま、時代は、全員参加型の経営を説かれています。経営者的素養を身に付けられるような社員教育にする必要があります。

4.人間のすることに完全はない、ということも忘れてはなりません。
 行動には失敗は伴います。何かやれば成功もありますが失敗もあります。避けられない失敗と避けられたはずの失敗とがありますが、後者はなんともしても避けたいものです。繰り返さないために失敗から学ぶことが重要です。失敗を隠さず、どうしたらこれを避けることができるか、自問自答を繰り返す人になりたいものです。

5.本業、本質の大切さ
 藻谷浩介氏著「里山資本主義」は、ハンディを有力な武器にすることを教えるものです。無い物ねだりをしても意味がありません。社員にはどこか長所があるはずです。それを活かす社員教育が必要です。

6.コミュニケーションが取れるということについて
 何事もコミュニケーションが大事であるといわれます。この能力に欠けていると評価されたくないと思うあまり、とても神経質になることがあります。
 しかし、ここで大事なことは、流暢にしゃべれることがコミュニケーション能力か、というと必ずしもそうではないということです。しゃべることが苦手な人はコミュニケーション能力に欠けるということにはなりません。
 寡黙な人も、内向的な人もいます。うまく表現できないときもあります。しかし、言葉で話すことだけがコミュニケーションを取ることではないということに気づけば余計な心配は要りません。
 要は、意思の伝達です。自分の言うべきことや思いをきちんと理解して貰えるように相手に伝えられるかです。動作によるコミュニケーションもあります。文章にして書いたもので表現する方法もあります。目と姿勢が大事です。顔の表情、仕草によって伝えることもできるのです。伝えるための誠実さが大切です。相手の話をいかに真剣に聴くか、そして自分の思いをどのようにして理解して貰うかに努めるべきです。そのためには注意深く相手の表情や相手の立場を知り理解することが必要でしょう。表現は、分かりやすく、話す内容は常に簡潔に、そして無駄な情報を含まず、整理して伝えるなどは、コミュニケーションを上手に取るための基本的なものでしょう。


平成27年6月

「業務上起因する」について

1.労災というのは、業務上(業務起因性−業務に内在する危険の発現)の負傷、疾病、障害、死亡等をいいます。
 業務上の負傷、疾病、障害、死亡としては、
 @事故性として捉えられる作業場での事故、災害による負傷、障害、死亡のほか、
 A非事故性、非災害性の疾病も含まれます。

2.業務上といわれるための業務起因性が認められるためには、
 (1)まず、業務遂行性が認められることが必要です。
   業務遂行性とは、事業主の支配、管理下(ただし、作業中に限られない)において起きたことであること
 (2)次に、この業務遂行性が認められることを前提として、業務起因性があることが必要です。
 (3)具体的には、次のように場合を分けて考えることとなります。
 @事業主の支配下かつ管理下で業務従事中に発生した場合
   この場合は労災の典型例と考えられます。
   事業場内における就業中(トイレなどの短時間の中断を含む)に起きた負傷、疾病、障害、死亡等の場合です。
   この場合、業務起因性は推定されますので、原則として労災とされます。
   したがって、業務起因性がないとして責任を免れるためには、この推定を覆す必要があります。
   ほとんど覆すことが困難であろうと考えられる場合でも以下のような場合は、推定を覆えせることとなります。
   ア 自然現象によるものであること
   イ 私的逸脱行為(喧嘩など)によるものであること
   ウ 規律違反行為(飲酒)によるものであること
   などの場合です。
 A事業主の支配下かつ管理下だが、業務従事中でないときに発生した場合
   例えば、休憩時間、始業前、終業後に起きた場合ですが、簡単にいえば、事業場内ではあるが、業務に従事していないときに起きた場合です。
   この場合は、業務遂行性は推定されますが、業務起因性は推定されない、と言えます。
   社員が休憩時間中にスポーツをして怪我したような場合です。
   このような場合でも労災だ、という主張する場合は、労災だと主張する社員の方が業務起因性を立証しなければならないこととなります。
   なお、このような場合でも例外的に業務起因性が肯定される場合がありますので、注意しなければなりません。例えば、事故が事業設備の不備、欠陥に起因する場合や、   業務に付随する行為の場合などです。 
 B事業主の支配下であるが、その管理を離れて業務従事中に発生した場合
   例えば、事業場外労働、出張中の事故などの場合です。

   出張中は、往復や宿泊の時間を含めて業務遂行性が認められます。危険にさらされる範囲が広いので、業務起因性は広く認められるとされています。
   治安の悪い海外出張中の宿泊先での強盗殺人による死亡などは、業務に内在する危険が現実化したものとして業務起因性が肯定されています。
   労働時間には当たらないとされる時間帯の労災です。
   このように労災かどうかということと、当該時間は労働時間かどうかかとは異なる判断基準となります。
 C業務性が問題となる行事への参加の場合
   運動会、宴会、慰安旅行に参加した際の負傷、疾病、障害、死亡等が労災になるのかという問題です。
   業務行為又はそれに伴う行為といえるかどうかが問題となるわけですが、参加が強制的である場合、すなわちいちいち出勤扱いをしているような場合(出欠を取るとか、欠  席の場合不利益な取扱をしているとかの場合)又はその費用を事業主が負担するような場合には、業務と評価されるものと考えられます。
   したがって、このようなケースの場合の運動会、宴会、慰安旅行での負傷、疾病、障害、死亡等は、業務遂行性が認められ、原則として業務起因性が推定されることとなり  ます。

3.業務遂行性と業務起因性が認められますと、労災と認定されます。労災補償は無過失責任ですから、会社に故意又は過失がなくとも損害賠償責任が認められることになりま  すので、一層会社としては、注意すべきこととなります。


平成27年5月

「続・業務に起因するうつ病の発症について」

 本号は、前号の続きとして労災としての「うつ病」を取り上げます。

1.業務によるうつ病の発症は、社員を人財と考えている企業では、有為な人財を失うことにもなるわけですから、その弊害は大きいものがあるといえます。

2.業務に起因してうつ病に罹患した社員については、労基法19条1項本文により、「療養のために休職している期間」等は、原則として、解雇することはできません。
 このように業務に起因して発症したうつ病については、休職期間中の解雇制限や賃金の支払いや、あるいは処遇の在り方について極めて重要な問題があります。

3.業務に起因するようなうつ病の発症をできるだけ避けることが望まれます。
 精神的疾患については自ら申告することを避ける傾向があると考えられますから、本人からの申告がない場合でも、勤務態度等からみて体調の悪いことが伺われるときは、これに配慮する必要が出てくるものと考えられます。

4.うつ病が労災である、と主張される場合があります。
 労災であるかどうかは、業務上(業務起因性−業務に内在する危険の発現)の疾病であることが必要です。
 最近は、うつ病のような精神疾患も問題となっています。強い心理的負荷による精神障害が発症したというような事例です。
(1)業務起因性としては、通常は、長時間労働が問題になりますが、これに限りません。
 仕事の失敗等、役割・地位の変化、対人関係等も問題となります。
(2)長時間労働ゆえに罹患したというなら、その労働時間が問題となります。
 長時間労働(いわゆる残業時間)との関連については、前号で取り上げたところです。
(3)「心理的負荷による精神障害(うつ病発症)についての業務上外の認定基準」があります。平成23年基準といわれるものです(基発1226第1号 平成23年12月26日)。
 これに従えば、
@対象疾病を発病していること
A対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
B業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと
の3つのいずれの要件も満たす場合、業務上の疾病として取り扱うことされます。
@とAは、積極的要件であり、Bは消極的要件となります。
@については、専門医の診断書等があれば認定されると考えられます。
Aについては、うつ症状の発症前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷は認められるかが問題となります。
Bについては、社員に素因があったり、業務外の出来事でうつ病に発症したと認められる場合であれば、業務性は否定されるということです。

ア 発症前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷があるといえるかどうかは、その間の仕事の量・質が問題になります。仕事の量・質に大きな心理的負荷となる変化はなかったというのであれば、強い心理的負荷はなかったと考えられます。
 上司等からの酷い叱責、注意等があったり、職場において対人関係が悪化していたなどという事実があるかどうかが問題になります。
イ 業務外の出来事や素因としては次のようなことが問題になります。
 離婚、親しい人の死別等の出来事があるか、子どもの犯罪、激しい兄弟喧嘩、不登校、家庭内暴力、夜の外出や家出などの出来事があるかどうか。これらが強い心理的負荷になったかどうかが問題となります。また、自身に「不眠症」、「性格の問題」などがあるかどうか、他院で治療等を受けているかどうかなども問題になります。

5.最近、職場に多くみられるうつ病ですが、意外にその実態が理解されていないと思われます。
 また、そもそも、専門的にも、「うつ病」の診断は大変難しいと言われているところです。
(1)種類としては、
A 内因性うつ病があります。典型的なうつ病です。脳の病気で、脳に変調があります。
  発症の原因がよく分からず、自覚も薄く、遺伝的、体質的な素因の影響が大きいといわれるものです。メランコリー型性格、几帳面、生真面目、強い秩序愛、強い他者配慮心、仕事を頼まれると嫌だと断れない、抱え込む、真面目でいい人等という評価を受けるものです。
  症状等の特徴としては、エネルギーの低下、起きられない、朝に悪化する、食欲不振、体重減少、過度な罪責感、自責の念が強い等があります。
  このうつ病には、抗うつ剤投与は効果があるといわれています。薬としては、SSRI系の商品名ジェイゾロフト等が投与されます。
B 反応性(心因性)うつ病があります。発症の誘因がはっきりしています。例えば、姑との同居が誘因となった例など。このうつ病には、抗うつ剤投与はあまり効果がないとされています。環境調整が必要であり、そのストレスの原因を軽減(取り除くこと)が必要です。
  特徴としては、自責より他罰的、怒り、他罰的言葉、恨み言が多い。投薬は効かないがカウンセリングは有効であるとされています。
C その他、新型うつ病というものもあります。
D 適応障害といわれるものがありますが、うつ病ではないとされます。
(2)うつ病の治療の三大柱としては、
 @内因性うつ病については、抗うつ剤の服用(1年〜1年半)をする。寛解することがあります。しかし、寛解したからといって油断せず薬を止めないことが必要です。再発の多い  病気であり、6割以上再発するともいわれているからです。 
 A休養を取ることが重要です。疲れ、睡眠不足から来ていると考えられるからです。
 B環境の調整が必要です。復帰できる状況、無理のない職場環境にする必要があります。

以上


平成27年4月

「業務上うつ病を発症したとの訴えについて」

1.長時間労働の問題は、業務に起因するうつ病の発症につながり、会社に対し、思わぬ損失をもたらし、会社の社員に対する安全配慮の在り方が問われ、場合によっては、そ の義務違反があるとして損害賠償請求に発展することがあります。

2.経営者側に立てば、想定外の出来事であり、賠償金の支払は予定外の出費となります。
 時に、ブラック企業のように世間に喧伝されると会社としての名誉や信用にも関わりますから、このような問題は起きないに超したことはありません。

3.それ以上に、社員を人財と考えている経営者としては、有為な人財を失うことにもなるわけですから、「正しい経営」からすれば、その弊害や損失は著しく大きいものがあると いえます。

4.業務に起因してうつ病に罹患した社員については、労基法19条1項本文により、「療養のために休職している期間」等は、原則として、解雇することはできません。
 このように業務に起因して発症したうつ病については、休職期間中の解雇制限や賃金や処遇の在り方について極めて重要な法的問題があります。
 また、このような疾病に対する偏見と予断を持って臨めば、世間から厳しく指弾されることにもなります。

5.職場環境に引き直して考えて見ると、職場内にメンタルヘルス上の問題を抱えている社員が出てきますと、他の社員から自分達は一生懸命働いているのに、彼(彼女)は楽  している、怠けている、それを会社は許している、そんな会社に我慢がならない、という社員も出てきますので、社員に対するメンタルヘルスについてのきめ細かい教育的研修 も必要となります。

6.本号では、業務に起因してうつ病を発症したとの訴えがあった場合を取り上げています。一般的に、自分がうつ病に罹患しているなどということは積極的に申し出ないもので す。その認識すらない場合もあるかも知れません。労働者にその素因があった場合、それを労働者から申告せず、これを明かさなかったことを理由に損害賠償額を過失相殺し て減額できるかが問題となった事案において、最高裁判決は次のように判断しています。
 「使用者は、必ずしも労働者からの申告がなくても、その健康に関わる労働環境等に十分な注意を払うべき安全配慮義務を負って」おり、「労働者にとって過重な業務が続く中でその体調の悪化が看取される場合」には、精神的健康(メンタルヘルス)に関する情報については労働者本人からの積極的な申告が期待し難いから、必要に応じてその業務の軽減をするなど労働者の心身の健康への配慮に努める必要があるというべきである、と判示しています(最高裁平成26年3月24日判決 労判1094号22頁)。
 使用者は、労働時間を管理しているのであり、また、労働者からの労務の提供を受けているわけであるから、労働者の労働量が過重になっているかどうかや、その心身についても関心を持たなければならない、ということだと思われます。それが経営者としての社員を大事にするという安全配慮義務の本質であるということになります。

7.うつ病発症の原因について考えてみましょう。
(1)まず、長時間労働の場合が考えられます。
  管理職教育の中に、労働時間の適正な管理を含めざるを得ないのはここにあります。管理職は、その責務を真剣に考えるべきこととなります。
  長時間労働(いわゆる残業時間)との関連については、
 @直前の1か月 160時間を超えるか、どうか。→超えると「強」となる。
 A直前の1か月 80時間以上か、どうか。→「中」となる。
 B直前の2か月 120時間以上か、どうか。→「強」となる。
 C恒常的に100時間以上か、どうか。→「強」となる。
 がポイントになります。

(2)上司等による言動等がパワハラとなって強い心理的負荷を与える場合が考えられます。 
  個別事案の判断にはなりますが、上司のパワハラに当たるかどうかの判断基準としては、侮辱、過度の心理的負担、名誉感情の侵害、休職の申出の阻害、心身に対する配 慮を欠く言動といったことがないかが判断基準となります。
 @「新入社員以下だ。もう任せられない。」というような発言は屈辱を与え心理的負担を過度に加える行為である、とされます。
 A「何で分からない。おまえは馬鹿」というような言動は名誉感情をいたずらに害する行為である、とされます。
 以上のような言動は、注意又は指導のための言動として許容される限度を超え、相当性を欠くものであったと評価されるわけです。

(3)仕事の失敗等、役割・地位の変化、対人関係等から強い心理的負荷を与える場合も考えられます。

8.強い心理的負荷による精神障害(うつ病発症の訴え)についての業務に起因すると認定される基準は、次のように考えられます。
 @対象疾病を発病していること(専門医による診断書で立証)
 A対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
 B業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないことの3つのいずれの要件も満たす場合、業務上の疾病として取り扱うことされます(基  発1226第1号平成23年12月26日(平成23年通達)。
以上



平成27年3月

「新入社員のために〜わたしたちは何のために働くのだろうか〜」

1.この世は、男女から成り立っており、しかも、ほぼ同数と考えてよいと思います。「男社会」であったと言わざるを得ない社会構造でしたが、これからもこのままの状況で続く筈もなく、また、続くことがよいとも思われません。社会は変化しています。雇用形態もどんどん変わると思います。これからの社会は、男性も女性も共に活躍することが期待され  ます。
 そこで、「わたしたちは一体何のために働くのだろうか」と改めて考えて見たいと思います。心構えやモチベーションのような意味においてです。

2.「求同存異」という言葉が中国にはあるとのことですが、働くという意味においても、立場、性別の違いは違いとして認め合い、その違いを尊重する姿勢が大事であるように思います。

3.最近、企業においては、全員が海外勤務を経験する制度を導入したり、大学においても、全学生を海外に留学させる制度が試行されようとしています。機会を平等に与えるという意味のようでもあり、誰にでもグローバルな素養を身に付けることを求めているようでもあります。
 でも、英語が得意ではない人もいるでしょう。外国や外国人にどうしてもなじめない人もいるのではないでしょうか。英語や外国になじめない人にとっては、それを求めることは強制のようになります。英語ができなくとも立派に仕事を成し遂げている人も多いのにです。
 一体、英語を話せなければグローバルになれないのでしょうか。全員をグローバル化しなければならないのだろうかという率直な疑問が出てきます。そうしなければ、会社は持たないのでしょうか。日本の企業は海外の企業と競争できなくなるのでしょうか。このような制度のなかった時代、日本は海外の企業と競争できなかったのでしょうか。
 人は、適材適所。その人のもっとも得意なものを活かす、あるいは伸ばしてやるという姿勢や努力が求められよう。短絡的に一律を求めるよりも、個性(特性)や特長を活かすのも重要だと思うべきです。
 わたしたちは、人並みを求めることも大事ですが、自らの個性や特長を伸ばす努力を怠ってはならず、日々研鑽を積まなければなりません。他人にないものを身に付けたいものです。
 マラソンレースでは、スタート直後は団子状態ですが、30キロ過ぎから脱落者が相次ぎ、ゴールでは、大差が付いています。人生も会社における履歴も同じではないでしょうか。何故、大差が付いたのか。マラソンではなく、短距離だったら結果は違ったのか、もう一度考えてみたいものです。

4.大手の会社に入社するか、中小企業に入社するか、という悩みもあります。給料は大手に劣るけれども、若い人にも重要な業務を任せてくれる会社を選択するか、大きな組織のひとつの駒として働くよりも一人の社員として活躍する場を与えてくれる会社の方が魅力的ではないか、などと考えます。その上で選択した会社に骨を埋めてみようとする覚悟はあるでしょうか。3年以内の離職率は3割を超えますが、その後は離職者の割合は極端に減少します。「石の上にも3年」とは良く言ったものです。

5.さて、人生(会社における待遇)は、順風満帆というわけにはいきません。競争(成功)と敗北(失敗)の繰り返しです。思うようにならないことも多いです。しかも、部下の不祥事で、理不尽な扱いと言わざるを得ない処遇を受けることもあります。
 しかし、わたしたちは敗北(失敗)からも努力の必要性を学ばなければなりません。試練だと割り切る積極性が望まれます。
 失敗には、必然の原因があるといわれますし、「失敗は成功の母」(エジソン)でもあります。誰でも、失敗はあります。人間のすることに完全はないからです。嫌なことほど隠してはなりません。ひとつ嘘をつくと、嘘をつき続けなければなりません。取り返しのつかないことになる場合があります。
 自己の失敗談や敗北の経験をきちんと話せる人は少ないです。失敗談を話せるのは成功した者にだけ許されるのかも知れません。
 ユニクロの柳井氏は、「1勝9敗」を認めています。9敗は敗北であり、失敗が多いということを認めています。失敗を誇ることはありませんが、人は、誰でも失敗があるという受け止め方は極めて大切です。
 会社は、一時の失敗や間違いがあっても、社員は必ず育つ、という思いで温かく見守る許容性も持たなければなりません。

6.わたしたちは何のために働くのか。給料のため?地位のため?昇進のため?
 頑張っても頑張らなくとも一緒なら、頑張らないのが人であるとも言いますが、会社の制度や処遇に不満があっても、会社のせいにせず、頑張っている人もおります。
一体何を原動力として働いているのでしょうか。
 「良心」ではないかと考えます。この場合の「良心」とは、「お天道様が見ている」「先祖の顔に泥を塗るようなことはしない」という言葉と同じような使い方です。人の足を引っ張るようなスタンドプレーではなく、自己の良心に基づいて働くということです。高い倫理観、使命感をもって、会社のため、世のため、社員全員の幸せのために働くということです。会社経営も、罰則や規則をもって厳しく監視するよりも、性善説に立って社員を信用して任せた方がうまくいくと言われます。「良心に基づく経営」というものです。
 「高い倫理観に裏付けられた正しい経営」に基づいて「正しく利益を上げる」ことによって会社の発展を期したいものです。それを支えるのは「良心に基づく働き」をする社員です。
 石田梅岩が江戸時代に既に唱えていたように、「今だけ、金だけ、自分だけ」の非を改めて考え、「良心に基づく働き方」を目指したいものです。

以上



平成27年2月

「時間外労働、休日労働等による割増賃金についての続き」

 昨年12月号に続くお話です。
 この問題は大事ですので、繰り返しの部分もありますが、おさらいをしながら、本号の目的である、労働時間であるとの推認を覆すことについて触れたいと思います。

1 割増賃金は、時間外労働、休日労働、深夜業(以下「時間外労働」)に応じて支払われます(その割増率は、労基法37条に規定しています。)。この割増率による支払を遵守しないと労基法119条1号の規定による罰則を受けることがあります(使用者は、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金となります。)。
2 時間外労働の問題は、割増賃金請求の問題と、過労死やうつ病の発症、自殺などの安全配慮義務違反による損害賠償請求の問題と密接な関連があります。
3 経営者側に立てば、いずれも想定外の出来事であり、その支払は予定外の出費となります。特に、時間外労働手当は多人数に及ぶ場合がありますので、総額は多額になることが一般です。
 したがって、管理職教育の中に、労働時間の適正な管理を含めざるを得ません。管理職は、その責務を真剣に考えるべきこととなります。
4 使用者には、労働時間把握・算定義務、労働時間管理義務があります。
時間外手当(残業代)請求の根拠についての主張・立証責任は、これを請求する労働者にあることには異論がないのですが、使用者側の管理等の義務に関連して、実際には、裁判例においては、使用者は、タイムカード(ICカードを含む)により労働時間を把握・管理しているとされます。この点については、かつて、滞在状況や勤怠を見るためであるという見方もありましたが、労働時間を管理していると考えられています。
 そして、タイムカードに打刻した入場時刻から退場時刻までの間の時間を労働時間と推認する、というのが裁判例の流れです。したがって、その時間から就業規則で定める就労時間を差し引いた残りがすべて時間外労働と推認されるということです。
5 ところで、「推定は覆すことができる」のであり、問題は、実際にはどのようにして推定を覆すことができるかということになります。
 例えば、次のような事情が考えられます。これを推定を覆す「特段の事情」と言います。
@ 時間つぶしのため同僚としゃべっている場合。
A 私事のために会社に居続けた場合。私的メール、株取引などをしていた場合。
B 麻雀、酒食していた場合。
 労働者が社内でこのようなことをしていたことを証明できれば、労働時間であることを否定することができる、という意味で、タイムカードの打刻にも拘わらず、それによって推定される労働時間性を否定することができるということになります。
 もっとも、上記@からBのような場合は、誰が考えても、労働時間とは言えないので、このような場合であれば、使用者側も立証し易いのではないかと考えます。ですが、実際はどのようにしてこの事実を証明するか、ということになります。
 前に紹介した仙台地裁判決が、この点につき、「その管理をタイムカードで行っていたのであるから、そのタイムカードに打刻された時間の範囲内は、仕事に当てられていたものと事実上推定されるというべきである。仮に、その時間内でも仕事に就いていなかった時間が存在するというのであれば、被告において別途時間管理者を選任し、その者に時計を片手に各従業員の毎日の残業状況チェックさせ、記録化する等しなければ、上記タイムカードによる勤務時間の外形的事実を覆すことは困難というべきである。」と判示していることをもって、極めて使用者側に厳しい判断をしていることを述べました。
6 実際にも、「時間管理者」を選任して、社員の脇に張り付けて、時計を片手に社員をチェックするなどということは誠に非現実的と考えられます。
 社員に密告を勧めるようなことになれば、職場はぎくしゃくすることになるでしょう。
 そうしてみると、なかなか労働時間の適正な管理・把握というのは非常に難しいものだということになります。
7 それでも、経営者としては、労働時間の管理を適正に行う必要があります。無駄な時間外手当を支給することは避けなければなりません。 
 常日頃から、タイムカード上の残業時間の利用の実態(業務への従事状況、私的行為への利用の有無等)を調査・把握し、管理職が社員に対し労働時間に関する働きかけをしているかどうか、その有無や程度を調査・把握し、社員が労務提供に従事することがないのに職場に早出したり、滞留したりしていないかどうか、などにつき、タイムカードの打刻時刻と合わせて分析することが必要となります。
8 実務における対策
@ 就業規則上、残業をするには、必ず上司の許可(残業命令が必要)とすること。それ以外は残業は認めないこととして周知すること。
A @の一般的な注意だけでは足りないとされているので、残業をする場合は個別具体的に時間外勤務命令書によってすること。そして時間外労働終了後には労働者が実時間を記載し、翌日には上司が確認するようにすること。
B 仮に、就業時間外に滞留していることがあった場合でも、それは福利厚生の一環として業務時間外の会社設備の利用(例えばパソコンの使用)が認められているからこれを利用したものであることを確認しておくこと。あるいは、業務外活動(クラブ活動など)が認められていることから滞在しているのだということを確認しておくこと。
対策としては、以上のような注意と配慮が要請されると言えます。


平成27年1月

「千年企業の復活・大逆転について」

 平成27年正月、おめでとうございます。

1 日本に千年も続いている企業があると聞くと、誰もが驚くことでしょう。しかし、実際に存在するのですから、びっくりします。
 578年に創業の「金剛組」という社寺の建築や修繕を仕事とする建設会社がこれです。平成26年時点で創業歴1436年になります。
 企業は永続性を志向しますが、千年も続くということは、きっと、永く続くだけの根拠があるに違いありません。
 会社50年と言われる中でも、100年も200年も続く企業には、他の会社にはない永く続く秘訣があるに違いありません。それらを見習って、千年とはいわずとも、企業としては永く続きたいものです。
 企業の永続性は、働く者の働き方にも参考になります。働くということはどういうことか、生きるということはどういうことか、自分が選んで入社したこの会社で、長く働いていくということはどういうことなのだろうか。長寿企業の長生きのノウハウから、あるいはその叡智から、それを考えてみたいと思います。
 人は、人生において順風満帆とは限りません。楽しい時があれば、苦しい時もあり、成功もあれば、挫折も失敗もあります。いっそ会社を辞めてしまおうかと考えるときもあるでしょう。
 しかし、「この程度の苦労はよそに行ってもきっとある。ここで引いたら、人生も負け犬になる。」と言い聞かせて頑張るのでしょう。
 また、「どんな仕事でも面白さは見つけられる。」と言い聞かせて、我慢し、次を目指すのでしょう。

2 会社においてもそうでしょう。栄枯盛衰は避けられません。しかし、倒産寸前まで業容悪化の状況に陥った会社が見事に大逆転し、鮮やかに復活することにより、永続性を維持している会社があります。長寿企業はそれをやり遂げているように思われます。
 日本には、200年企業と呼ばれる会社は、3000社もあるとされています。100年企業となると、2万6144社に上るといわれています(一説には、2万7441社という統計もあります。)。このように長寿の企業が多数存在する点において、日本は世界でもダントツであるということです。
 ちなみに隣国の韓国は200年企業はゼロということです。
 「千年企業の大逆転」(野村進著・文藝春秋)という本には、5つの老舗の会社を取り上げて、そのような経過を辿りながらも大逆転して鮮やかに復活した例として紹介しています。ここで、千年というのは、長いことを意味する象徴的な言葉です。 
 大逆転の鍵は、「それぞれの本業の核となるものは変えず、時代に適応しながら業態を柔軟に変化させてきた」こととしています。
 このことは極めて大事なことと思います。 
○ 近江屋ロープ株式会社の例
 この会社は、新撰組に「御用の縄」を納めていたという由緒ある長寿企業ですが、戦後、戦災家屋の復旧等から売上を伸ばし、さらにバブル期の建築等の盛況に伴い林業用のロープの販売で好況を続けましたが、その後の林業の衰退という時代の流れに伴い、一気に売上が落ちることで苦境に陥ったものの、本業を活かした、鹿の食害防止用のロープ製のネットをフェンス状にした「グリーンブロックネット」やイノシシの食害防止用の「イノシッシ」や「ビリビリイノシッシ」などの獣害対策用品を新商品として開発し、製造販売することにより、見事に復活した会社です。
○ ヤシマ工業株式会社の例
 この会社も江戸時代から続いているのですが、一時は、店舗を失い、4代目は病床に伏すなど創業以来最大の危機の状況に陥った時期もありました。しかし、少子高齢化と低成長の時代において、老朽化したマンションを生まれ変わらせるために、本業の根幹である「長持ちさせる」、「壊さない」をモットーとして、新築には一切たずさわらず、改修だけに特化することで業容を拡大している会社です。改修に特化することにより、赤外線で壁のひび割れや水漏れ箇所を探し、内部のひび割れは超音波で調べるというように、あたかも人間ドックの医者のように建物をあらゆる角度から検査するというノウハウを身に付け、しかも「壊さないことへの挑戦」のモットーのもとに「壊さない街づくりが、日本再生の切り札」と標榜し社会に貢献する会社となっています。
 そのほかに、新田ゼラチン株式会社の例、テイボー株式会社の例及び三笠産業株式会社の例を取り上げて紹介しています。
 時代の流れに合わず、あるいは、本業そのものの躓きによって一時は、会社存亡の危機に陥った老舗企業が、弛まぬ努力と飽くなき探求心をもって、それまで培った本業力を活かして次の新たな商品を生み出していくという鮮やかな復活を遂げている会社です。
 野村氏は、「千年企業の大逆転」と評して紹介していますので、興味のある方には一読をお勧めします。

3 「変わらないためには変わらなければならない。」とはこれまでも何度か述べて来ましたが、人も会社も常に安泰ということはあり得ない。挫折と絶望の淵に立たされることも当然あります。問題は苦境に立ったときの対応です。いかにして本業力を活かして見事に復活するかを真剣に考えるべきです。
 私たちは、自らのアイデンティティーを見失うことなく、100年企業、200年企業に向かってさらなる努力をするほかはありません。


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